Waltz for Debby Bill Evans


エヴァンスといえば、ほとんどの方がこのジャケットを思い出すのではないだろうか。

初期のトリオでニューヨークのヴィレッジバンガードに出演した時のライブだ。タイトル曲のWaltz for Debbyは、エヴァンスが3歳の姪のために書いた曲で、後に多くのジャズメンがカバーするスタンダード曲になった。


このトリオでは、スコット・ラファロのベースがメロディーに絡んで、刺激しあうことによってアイデアを発展させていく、まさにインタープレイが繰り広げられていて、本当に素晴らしい演奏だ。(ドラムスのポール・モチアンが時々走りすぎているが・・・。)


ただ、当日の客は落ち着きがなく、ガヤガヤとしゃべり声は入るし、グラスのガチャガチャいう音も入っている。エヴァンス自身「あの時の客席は最悪だった」と懐述しているくらいであるが、その中でこの集中力は素晴らしい。

このライブの10日後にベースのスコット・ラファロが交通事故で亡くなってしまったため、トリオの活動も途切れてしまった。これはジャズ史上大変な損失だったと言えるだろう。


このトリオについて、村上春樹が書いている言葉がすごい。『人間の自我が(それもかなりの問題を抱えていたであろう自我が)、才能という濾過装置を通過することによって、類まれな美しい宝石となってぽろぽろと地面にこぼれおちていく様を、僕らはありありと目撃することができる。その複雑精緻な濾過装置をぴたりとスタピライズ(安定化)し、またその内向性を相対化し、活性化しているのが、スコット・ラファロの春のようにみずみずしく、また森のように深いベース・プレイである。その新鮮な息吹は、僕らのまわりを囲んでいる世俗的なバリアを静かに解き、奥にある魂を震わせる。この時点でエヴァンスなくしてラファロなく、ラファロなくしてエヴァンスなし-まさに一世一代、奇跡的な邂逅といってもさしつかえないだろう。』(中略)『エヴァンスはそれからあともいくつかの優れた演奏を残しはしたが、ラファロ以降、「自我の相対化」のより新しいパースペクティブをジャズファンの前に示すことはできなかった。繊細で内向的な資質は常に高い水準で保たれていたが、かつてそこにあった発熱は消えていた。失われてしまったたった一度の宿命の恋のように』と。(ポートレイト・イン・ジャズより引用)


こんなすばらしい表現は自分にはできないが、いずれにしても、エヴァンスの最高傑作であることに同感。


客席にいるつもりになって、ワイン片手に。


1961年録音)

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